少し前に「遠い太鼓」を読み返した。
村上春樹さんが3年間、ヨーロッパで暮らしたときの日々の記録。彼はこの期間の間に“あの”「ノルウェイの森」と「ダンス・ダンス・ダンス」を書きあげた。
なんとなく冒頭をめくっていて、このエッセイが37歳〜40歳までの間に書かれたことに気づいた。ぼくは今、36歳。自分は今あの人がこの本を書こうと思いたった年齢に差し掛かってるのだ。
本の中にはこう書かれている。
“四十歳というのはひとつの大きな転換点であって、それは何かをあとに置いていくことなのだ、と。そして、その精神的な組み換えが終わってしまったあとでは、好むと好まざるとにかかわらず、もうあともどりはできない。試してはみたけれどやはり気に入らないので、もう一度以前の状態に復帰します、ということはできない。それは前にしか進まない歯車なのだ。
ーーー僕の中で精神的な組み換えが行われてしまう前にーーー、何かひとつ仕事を残しておきたかった。”
転換点というのはぼくもいくつか経験している。
たとえば30歳。その年齢も僕の中では大きな転換点だった。
それを境に、20代のうちでは見えていなかった自分の能力の天井が見えた。昔はひとりでなんでもできるようになることを目指していたけれど、その天井を見てからは考え方を換えた。
40歳。自分にはどんな組み換えが待ってるだろうか。今まで特に予感はなかったけれど、読み返してから少し意識を向けるようになった。その組み換えが行われる前に、ぼくもまた何かひとつ仕事を残しておく必要があるんだろうな。