ひとつ先の手作りに出会える手工芸店「Found & Made」

2017年春、国立に開店。出来上がってからまだ一年経っていない新しいお店ながら、素敵な手工芸店と出会った。お店の名前は手しゴト道具と古いモノのお店+手織りのアトリエ「Found & Made」という。

お店は国立駅から高架下沿いを歩いて10分ほど進んだところにある2階建ての建物の2階だ。1階はご主人が営むグラフィックデザインと看板、什器類の制作会社TRUNK WORKSの事務所になっている。

店主の佐野麻子さんとは偶然、あるイベントで出会った。ホームページを見て、取り扱っている糸も道具も、キットも、書籍も、すべてに一貫したセンスを感じ、魅力に引き込まれた。これは楽しそうだと、大きな期待を寄せて、取材を申し込ませてもらった。


店内には、海外のメーカーから買い付けた織物用の糸や手芸道具、布、食器、古道具、DIYのパーツなどがセンスよく並んでいる。甘さが抑えられたテイストはクラフト心をくすぐられ、老若男女問わず受け入れられるように感じる。見たことのないタイプのお店だと思った。いったいこのお店はどうやって生まれたのだろうか?

「きっかけはスウェーデンでした。美術大学でテキスタイルを学び、卒業後はテキスタイルデザイナーとして働いていましたが、個人に向けての丁寧な仕事をしていけたらと、手織りやシルクスクリーンプリントなどの制作は続けていました。仕事を辞めたタイミングで、念願だったスウェーデンにある手工芸学校のサマースクールへ行ったんです。その学校に併設された手工芸を学ぶ人たちに向けたお店がとても素敵で、見た瞬間にこんなお店を日本でやるんだとイメージが具体的になりました。すぐに頭の中で買い付けをはじめてしまったくらい(笑)」

佐野さんが影響を受けたスウェーデンの手工芸学校『Sätergläntan』内のショップ
イギリスの洋裁道具ブランド・Merchant & Millsの道具
北欧の糸メーカー『GarnhusetIKinna』から直接輸入している織物用の糸や編み物用の太い糸
ニシンやフクロウなど北欧ならではのモチーフがかわいい、フィンランドの手芸キット

「作家さんの作品と、作るための道具や素材が並列に扱われていて、そんなところが本当にツボでした」。

話を聞いて、あぁ、なるほどと腑に落ちた。多くのお店はものを作る人に向けた道具を売るお店か、出来上がった作品を販売するお店かに分けて考えてしまいがちな気がする。各地でクラフトマーケットが開催され、作家が職業として成り立ちつつある最近では、それを志す人も増えてきただろう。そういう人たちは、目標になる良質な作り手の作品も、創作活動のモチベーションを上げてくれる素敵な素材や道具も、どちらも求めているのかもしれない。作り手が営むこのお店は2つの要素がとても自然に同居している。

スウェーデン織の織機。店頭の空いた時間に佐野さんが創作活動を行う。マットやタペストリーなどのオーダーメイドも受け付ける。

店内には休憩、ワークショップスペースを併設している。手仕事をする人たちが自然と集まってコミュニケーションする場所にできたらとの想いだ。2時間フリードリンク付きで500円。小さな本棚には佐野さんが集めた国内外の手芸本が置いてあり、訪れた人は自由に読むことができる。

「今後は友人・知人を講師に招いてワークショップ開催も定期的に行なっていけたら」。まずは第一弾としてオリジナル商品のバンド織りキットを使ったワークショップを数度開催している。

オリジナル商品のバンド織キット。制作はTRUNK WORKS。机や棚などの什器類、内装もすべてTRUNK WORKSの仕事。夫婦で協力して納得のいくお店を作り上げている。

インスピレーションをもらえる国内外の手芸本。
織り機のシャトルに糸を巻くボビンは佐野さんお気に入り。こういった作り手ならではの道具愛がこのお店の本質を語る。
国立の畑で育てた綿やその手紡ぎの糸を織り、木と組み合わせて作ったオブジェ。次のワークショップ候補のひとつ

「自分の作品や、手織り仲間の作品の取り扱いにももっと力を入れていきたいです。私がスウェーデンで学ぶきっかけをくれた織物の先生の教室には長年通っている先輩たちがたくさんいらっしゃいます。そういう方たちの作品も紹介したいなと思って。何年も織り続けていらっしゃる方々のものづくりってやっぱりすごいですから。私なんか足元にも及ばない。世代を越えて手仕事の輪が広がったらいいなと思っています」。

時間と手間のかかる手仕事を楽しみながら、広い視野と柔軟なアイデアで、やりたいことや魅力をみつけ、ゆっくりと自分のペースで歩を進める佐野さん。その先には、いわゆる手作りの、ひとつ先の景色が広がっている気がした。

Found & Made
〒186-0005
​東京都国立市北2-35-57
TEL/FAX 042 505 9517
11:00 – 17:00
定休日:第2,4,5土曜・日・月・祝日
https://www.foundandmade.jp/

ひとつ先の手作りに出会える手工芸店「Found & Made」

テキスタイルデザイナーたちの次の未来を開くか? pole-pole textile labo 001 “faces”

新作のひとつ「kiri」

「いままでとは違ったアプローチがしたくて、会社をつくるつもりです」。

洋服のデザイン・パターンを手がける廣瀬勇士さん、テキスタイルデザイナーのシミズダニヤスノブさん、近藤正嗣さんの3人からそう聞いたのは2ヶ月前のこと。2017年6月、フリーランスのテキスタイルデザイナーたちが集まり、デザイン会社が結成された。名前は「pole-pole」(ポールトゥポール)。個人として実績を積んできたデザイナーたちがチームを組み、法人化して目指す“いままでとは違ったアプローチ”とはなんだろうか? その答えを探しに、代々木八幡のCASE GALLERYで開催した初の作品展を訪ねた。

初めての作品は「織物」

今回の展示では「faces」をテーマに、どちらの面もオモテとして使えることや、表面の立体感を意識した2種類の布地を発表した。一つは、さまざまな織組織の組み合わせと素材の収縮率の違いで凹凸を出した「michi」。もう一つは、ウールとコットンを二重に織り、ウールだけをオパールプリントで部分的に溶かした「kiri」だ。

薬品でウールだけを溶かすことで、表面の凹凸と透け感を生み出している。天然素材の組み合わせでこの加工を施している生地はあまり見ない。

メンバーの中のシミズダニさん、近藤さんは今までプリントのテキスタイルデザインに特化して活動してきた。しかし、今回は得意の技法ではなく、織物、立体感をテーマに作品を発表した。これにはある想いがあった。

「michi」
こちらは多様な織組織の組み合わせと収縮率の違いで凹凸を出している。

exhibitionではなくlabo

「pole-poleの展示は、ぼくたちが知恵をしぼって、こういうこともありなんじゃないか、と自由な提案ができるようにしたくて。だから、タイトルを“exhibition”じゃなくて、pole-pole textile“labo”にしたんです。工場さんと一緒におもしろいことをやりたい。実験的な試みをしてその成果を発表できる場所にしようと考えました」。

自然と、得意としていたプリントに縛られることなく、今までにやったことのない織物への挑戦が最初のスタートになった。それは、会社の目指す形にもつながっている。

「布のことならここに相談すればなんとかなるって会社になったらいいと思っています」

3人は会社のあり方をこう話してくれた。ブランドとして、定期的にラインナップを発表していくのではなく、布や模様を軸にしたさまざまな案件を請け負うデザイン会社。

「インテリアでも、洋服でも、アートでも、布にまつわるどんなことでも一緒に考えて、おもしろいものを提案していきたいと思っています。クライアントに求められることに対して、チームでアイデアや知識を集めて、工場さんとも協力しあって、オリジナリティのある取組みをしたいです」。

創業の想いはここにあった。

今回発表した柄は、一見すると2種類の生地だが、2柄共通の経糸、緯糸で織られているのだそう。織物は構造上、量をつくらないと工場としては採算が取りにくい。2柄の経糸と緯糸を同じにすることで工場の負担は減らしつつ、デザインのアプローチでここまで変化をつけた。もちろん新しい挑戦にはたくさんの試行錯誤を伴っているが、織物の抱える量のハードルを超えるきっかけのひとつを示しているように思った。

デザイナーとして、クライアントと工場の間に立つ。

彼らは、これまで培ってきた知識やセンス、人脈を活かして、デザインの力で、テキスタイル産業の課題を解決し、よりよいものを生み出す橋渡し役をしようとしている。

「オリジナリティのある布地が世の中に増えていったらいいと思う。そうなったほうが楽しい気がして」。

コンセプトは「新しいデザインではなく、大切なデザイン」。彼らの提案する“大切なデザイン”とは、クライアントそれぞれの求めるものを丁寧に聞き取り、ずっと残っていくものを提案する姿勢。それはまさに「pole-pole」=点と点をつなげる行為だ。そこには、布を製品として打ち出す“いままでとは違ったアプローチ”があり、テキスタイルデザイナーの新しい未来を開く扉があるように、ぼくは感じた。

pole-pole

“新しいデザインではなく大切なデザイン”がコンセプトのフリーランスのテキスタイルデザイナーたちによるデザインチーム。立ち上げは廣瀬勇士、シミズダニヤスノブ、近藤正嗣の3人。
from-pole-pole.com/

pole-pole textile labo 001 “faces”
2017.6.28-7.9
CASE GALLERY
平日:14:00-20:00
土・日:11:00-20:00

次の発表の機会は「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2017」。
「rhythms」をテーマに、色について新しい試みをしたインスタレーション作品を発表予定です。


六甲ミーツ・アート 芸術散歩2017
2017年9月9日(土)〜11月23日(木・祝)
rokkosan.com

テキスタイルデザイナーたちの次の未来を開くか? pole-pole textile labo 001 “faces”