先週木曜日〜土曜日にかけて出張に行ってきました。一番の目的は刺繍作家のatsumiさんと開発中の刺繍糸の材料探しに愛知県へ、それに合わせて4月から一緒に働いてもらっているスタッフ・久保田への研修も兼ねて奈良・三重まで足を伸ばしたのでした。
とても充実した3日間で、この期間に感じたこと、そこに至るまでの背景を少し書いています。道程や訪問先のことは久保田にまとめをお願いしたので、ぼくはそこには書かれないだろう内側の部分を記します。
第一回 愛知・奈良・三重へ
今回は刺繍作家・atsumiさんとの商品開発のことを。
きっかけは草木染めを活かした商品の相談をいただいたところからでした。絹の糸が染めやすいということで、シルクの製品だと何がよいかなと考えたときに、刺繍の糸にしたらおもしろいかも?と思い立ち、作品のファンだったatsumiさんに相談をしたところから開発が始まりました。結局草木染めのほうは保留になってしまいましたが、開発プロジェクトは続いていて、今まで刺繍に使われてこなかった素材の発掘をしています。
特筆したいのは、この開発プロジェクト「いつまでに」というゴールを明確に決めていません。atsumiさんと相談して決めた目標はざっくりと2年くらい。アパレル産業はもとより、商品を企画する業務を行っている会社としたら信じられないことでしょう。だからこそ自分たちにしかできないのですが。
何かを作る上で締め切りは重要な役割を果たします。期限を決めることでスケジュールが決まり、実行への後押しになります。また、経営の面では開発にかかるコスト(費用、人件費)と効果をある程度数値化し、費用対効果を鑑みて意思決定の材料にします。ぼく自身、その力にはとてもお世話になっています。
けれど、そこには弊害もあります。締め切りだけ先に決めて、そこに向かって全力で走る短距離走ばかりの世の中になっている気がしてなりませんでした。SNSの時代になり、フットワークの軽さが重要視されるようになってから特に加速度的にその傾向は増してきたと感じています。
一方で、今の時代に暮らしている人たちが次から次へと流れてくる情報の渦にきちんと対応できているかと言えば、正直そうでもないのではないでしょうか。もはや日々流れてくる情報の量は人間の脳の処理能力をはるかに超えているのだろうと思います。結果として細かい情報は見なくなってきている気がします。
そんな世界の中で大事にされるのはしっかりと情熱を向けて作られた骨のあるコンテンツだと思うのです。早く、とか、たくさん、みたいな貪るような概念を捨てて、届けたいものを真摯に見極め、美しさを追い求め、長く愛されるものをつくる。そもそも人がものを生み出すのに締切という概念は今ほど圧力のあるものではなかったはずで。どうなるかはわからないけれど、手を動かしながら今までになかった新しいものをやってみようと開発を進めています。
こういう取り組みの仕方はこちらからの一方的な依頼ではできないものです。提案をもらったのはatsumiさんのほうからでした。じっくりと時間をかけたものづくりはいつか挑戦してみたいことでしたので、楽しみながら意見の交換を進めています。